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東京地方裁判所 平成2年(特わ)2104号 判決 1991年11月29日

主文

被告人を懲役三年四月に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四四年以来衆議院議員を務めていたが、以前から証券会社を通して株式等の売買を行っており、また、大量の株式を扱う仕手筋の人物を知ったことから、同人と直接株式の取引を行って、昭和六一年からは多額の株式取引による利益を得るようになった。このように被告人は、営利を目的として継続的に株式等の有価証券の取引をしていたが、その株式等の取引による所得に関し所得税を免れるため、株式取引を自己の親族や秘書等の多数の名義で行い、株式等の取引による所得については所得税の申告に当たって一切申告しないなどした上、

第一  昭和六一年分の実際総所得金額が二億九五二四万八九八三円(別紙一の1の修正損益計算書のとおり)であったにもかかわらず、同六二年三月一四日、住民登録上の住所地を管轄する栃木県足利市<番地略>所轄足利税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が一八一五万四五四〇円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると三二万九〇九二円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(平成三年押第二九三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億八七三六万六〇〇〇円と右申告税額との差額一億八七六九万五〇〇〇円(別紙二の1の脱税額計算書のとおり)を免れ

第二  昭和六二年分の実際総所得金額が一七億一六二三万四七九九円(別紙一の2の修正損益計算書のとおり)であったにもかかわらず、同六三年三月一四日、前記足利税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総所得金額が二〇八〇万七八九七円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると一八一万九七九円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一〇億一一二六万五〇〇〇円と右申告税額との差額一〇億一三〇七万五九〇〇円(別紙二の2の脱税額計算書のとおり)を免れ

第三  昭和六三年分の実際総所得金額が八億六九三八万二三四四円(別紙一の3の修正損益計算書のとおり)であったにもかかわらず、平成元年三月一四日、前記足利税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が二七六八万三六四九円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると二七〇万三三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五億四八〇万七二〇〇円と右申告税額との差額五億二一〇万三九〇〇円(別紙二の3の脱税額計算書のとおり)を免れ

たものである。

(証拠の標目)<略>

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役三年四月に処することとする。

(量刑の理由)

量刑に当たって考慮される事情のうち、被告人の責任が重いとすべき事情は、次のとおりである。

第一に、その脱税額が極めて大きいことである。

本件は、株式等の有価証券の取引による所得を全く申告せず所得税を免れた脱税事犯であるが、被告人の株式等有価証券の取引(以下、株式取引が大部分であることから、単に「本件株式取引」という。)による所得は、昭和六一年が約二億七七〇六万円、同六二年が約一六億九五三四万円、同六三年が約八億四一六九万円、三年間合計で約二八億一四〇九万円であり、右三年間の合計総所得金額約二八億八〇八六万円のうち実に約97.6パーセントを占めている。これに対し脱税した金額は、昭和六一年が約一億八七六九万円、同六二年が約一〇億一三〇七万円、同六三年が約五億二一〇万円で、三年分の合計は約一七億二八七万円に上る。このような脱税額は、通常の一般国民にとって到底思いもつかない巨額なものであり、例えば被告人自身の国会議員としての年間歳費と比べても、昭和六一年で10.7倍、同六二年で56.9倍、同六三年で27.6倍に達し、いかに多額であるか分かる。しかも、当裁判所の審理段階でも、右一七億円を超える脱税額のうち約六億五五五〇万円が現実に納められないまま残っている。また、本来納めるべき税額に対し免れた税額の割合も、本件株式取引による所得を全く除外して所得税の申告をしたため、右三年間で九九パーセントから一〇〇パーセントとなっている。本件は、これまでの所得税法違反事件の中でも数少ない巨額脱税事犯であり、その脱税額の大きさが国家の租税収入を害し、国民の納税意欲を低下させるなど、納税制度に大きな悪影響を及ぼしている。

第二に、本件が国会議員による脱税事犯であることである。

被告人は、昭和四四年一二月以来連続して八期、二一年間余り衆議院議員を務め、その間国務大臣として環境庁長官を務めるなど行政にも関与してきたのであり、法律の制定、予算の審議・議決に関わること多く、政治の理想を実現する政策を遂行するにも財政的裏付けが必要で、その財政的裏付けの主要なものが税収であることを、体験をもって十分認識してきたと考えられるのである。しかるに、そうした国会議員が自ら多額の脱税をしていたとあっては、その政策を訴える言葉は虚しく、政策に対する不信を招き、さらには政治家に対する国民の信頼は著しく損なわれる。本件が、国会議員による巨額脱税事犯として、国民の納税への疑問を生じさせ、その納税意識を歪めるおそれがあり、国民に与えた衝撃は大きいといわねばならない。

第三に、本件巨額脱税の元となった所得が、株式取引による利益で当初から脱税を意図して得られたことである。

被告人は、市場での株式取引については、資金の調達、証券会社への口座開設、売買の注文、売買代金の授受、売買利益の管理など自ら行い、多くの証券会社に多数の名義の口座を設けて、年間実に多くの株式取引を行って利益を得る一方、当時大量の株を扱っていた仕手筋の人物を知ると、その扱う株式について、例えばあらかじめ高値買い取りの約束を得て、大量に買い付けた上同人に直接売り付けるという仕手筋の人物との相対取引で、正に労せず巨額の利益を得ていたのである。しかも、被告人は、こうした株式取引による利益については、多数の他人名義の口座を利用したり、仕手筋の人物との取引に当たっては他人の名義を使うなどして、当初から脱税をする意図を有していたのである。このように本件は、株式取引による巨額の利益の確保を目的として、当初から脱税をもくろんだ意図的な犯罪であるといえる。

第四に、本件株式取引及びその利益を隠した本件脱税が、個人的資産の増加を意図して行われたといわざるを得ないことである。

本件株式取引の資金は、被告人自ら手配した銀行、証券金融会社等からの借入金によって賄われ、証券会社への借用名義人の口座開設や株式売買の注文、株式売買代金の入出金の指示を自ら行い、特に株式売却代金は、専ら被告人が管理していた銀行預金口座等に振り込ませ、あるいは自己の下に直接持参させており、株式の売買益は、被告人が設けた銀行口座によって被告人自らが管理運用し、その多くは株式買付けに再投資し、一部は被告人の設立したペーパーカンパニーによる不動産購入の手付金等に当てられている。このように、株式取引の資金、株式取引の状況、利益金の使途・留保状況などを考慮すると、本件株式取引及びその利益を隠して課税を免れた本件脱税は、被告人個人の資産の増加を意図として行われたものであるといわざるを得ない。

弁護人及び被告人は、本件株式取引は政治資金を作り蓄えるため行われたものであり、その株式取引による利益を隠した本件脱税も、政治資金を作り蓄えることに動機があったのであるから、その点は情状として十分斟酌されるべきであると主張する。本件株式取引及びその利益に関する本件脱税が、被告人の個人的な蓄財を意図して行われたものであることは、前記のとおりであるが、その個人的蓄財のためといっても、政治家にふさわしくある程度身辺を調える程度の意図はあったとしても、それ以上に純粋な個人的用途に大部分を費消したり、奢侈・贅沢をするためでなかったことは是認でき、また政治家にあっては、政治家としての活動のための公的経済と純粋私的な事柄のための私的経済とを、截然と分けることが難しいことも否定できないところであるから、被告人の本件株式取引や脱税が、個人的蓄財を意図して行われたものであったとしても、その蓄えられた資産が、将来とも政治活動の資金として使われることが何ら考えられていなかったとはいえず、被告人が政治家として一層活躍し飛躍を遂げるため将来使うことを、念頭に置いたということも肯定されるところである。そこで、本件株式取引及びその利益を隠した本件脱税の動機として政治資金を作り蓄えるということがあるとして、それが酌量すべき情状に当たるか考察することとする。

弁護人は政治資金ということで一括しているが、その政治資金の内容、すなわちその資金の使途は多種多様なものがあり、例えば、本件の証拠関係から窺えあるいは一般的に予想されるものとして、政治家本来の活動である政策の研究調査立案のため使われる費用、政治家としての活動を支える秘書や事務所のため使われる経費、選挙地盤や後援会組織の維持拡大のための様々の出費、具体的な選挙に際しての運動活動費、傘下地方議会議員への支援のための出費、所属政党内での地位確保・向上のための出費、閣僚等就任のための運動費などが挙げられる。このように、政治資金といわれるものには、政治家本来の活動である政策研究調査立案のための資金という公的活動に費やす資金から、後援会の維持拡大や選挙地盤の確保強化のための、言い換えれば選挙での票獲得を目的とした資金のように個人的利害に関係する資金まで、多様な内容・性格のものが含まれるのであり、しかも、この後援会の維持拡大という選挙での票獲得を目的とした資金が、政治資金の中で多くの割合を占めていることも、被告人の当公判廷での供述を始めとする関係証拠から認められ、また広く知られたことである。被告人が領収書の取れない裏金の政治資金を作る必要があったと述べ、あるいは弁護人が、政治資金を作るため政治家が株取引をしていることが知れると、非難を浴びて選挙に悪影響を及ぼすおそれがあると主張するが、これらはまさに政治資金の実態を表しているといえるのであって、政治資金には公表をはばかられる出費があり、株取引によって作られたその資金の使い道の不明朗さが、非難を呼び起こすということではないだろうか。こうしてみると、政治資金といわれるものの内容、性格は様々であり、しかもその多くが、選挙での票獲得という個人的利害に関わることに使われると考えられるのであって、このように個人的利害に関わる出費となれば、例えば、事業家が自らの事業欲を満たし、事業を維持拡大するため出費をする場合のように、それぞれの職業、階層の人々が個人的動機・利害から出費するのと、基本的には変わりはないといえるのである。弁護人や被告人が、政治資金ということで、他の職業の場合とは区別すべき、政治家個人の利害とは無関係の純粋に公益のための活動あるいは公的な使命のために使われる資金という意味を持たせているのならば、それには賛成できない。そうであれば、政治資金確保のためという本件株式取引及び脱税の動機が存したとしても、それは、例えば事業家が不況に備えあるいは事業の拡張のためという以上に、特別斟酌すべき事情には当たらないといわざるを得ない。被告人は政治家をしているといろいろな点でアバウトになると供述したが、それが、あたかも政治家は政治資金という名の免罪符を持つかのような考えを抱いていたことを表しているのならば、納税に関する限り受け入れることができない。また、弁護人は、本件の特殊性として、実際に金を必要とする政治の現実があることを酌むべき情状として考慮されたいと主張し、被告人も、政治家の現実は金がかかることを強調する。しかしながら、たとえそのような現実があったとしても、その政治資金といわれるものの現実の使われ方が、右のように公的な性格のものから私的な性格のものまで実に様々であり、今日の社会においてそのような金が必要である現実は一人政治家の場合のみでないのであるから、政治家の場合のみを特別視することは相当でなく、脱税の酌むべき情状として考慮することはできない。もし金がかかる政治の現実を容れて脱税について酌量するならば、その政治の現実を是認することになり、税の公正公平な負担の原則を歪め徴税秩序を乱すことにもなるのであって、法は政治の現実におもねらずの姿勢を保持することが肝要と考えられる。

なお、弁護人は、本件で被告人が行った株取引は、政治資金を作り蓄えるためであるが、政治資金規正法上の政治団体が政治資金を作るため株取引を行ったときは、非課税であるのに対し、同じ政治資金作りのため政治家個人が株取引を行ったときは課税されるというのは均衡を欠き、その点情状として考慮されたい旨主張する。政治資金規正法上の政治団体については、収益事業を営む場合のみ課税されるのであるが、株取引自体は収益事業と見なされていないことから、政治団体の行う株取引は課税の対象とされていないが、一方、政治資金規正法上の政治団体については、その収支を公開し国民の判断を受けることが要請されているのである。そこで、被告人は、政治資金を作るため株取引を行ったとしても、その株取引による政治資金作りが世間に知れることを避けるため、自らの選択で株取引を政治団体に行わせず個人で行い、同時に課税を免れる手段をも講じたものであるから、自らの選択の結果に不均衡があるからといって情状として考慮を求めるのは不当であり、弁護人の主張は容れることができない。

一方、被告人のため酌むべき事情として、次のような事情がある。

第一に、被告人が二一年間衆議院議員として国政と国民のため尽くした功績が挙げられなければならない。

被告人は、若くして政治家を志し、栃木県第二区から衆議院議員選挙に立候補し、三度目の挑戦で昭和四四年一二月三四歳の若さで衆議院議員に初当選し、以来連続八回当選を果たして二一年間にわたり衆議院議員を務めてきたもので、その間政務次官、常任委員会委員長等を歴任し、自由民主党の副幹事長、全国組織委員長の役職に就き、昭和六一年七月から翌六二年一一月までの一年三カ月余りは国務大臣として環境庁長官を務めている。被告人は、弱者の保護という政治理念の実現を目指し、利権にとらわれない政治家という信念を実践して、長く国会議員及び国務大臣等として国政に寄与し、特に環境庁長官在職中に、自然環境保護という面目躍如たる業績を残すなどし、国民のため尽くしたその功績は大きいといわねばならない。

第二に、被告人が今回の罪の責任を深く感じ、自主的に国会議員を辞職して陳謝の態度を表していることである。

被告人は、前記のとおり連続八期衆議院議員を務めたのであるが、平成二年一二月二七日本件起訴がなされるや、翌平成三年一月八日自ら決断して議員辞職願いを衆議院に提出し、同月一八日院議でその辞職が許可となったのであるが、それは、一度国民の信頼を損ねた者は、国政を預かる地位にとどまるべきでないとの信念と、国民を裏切ったことに対する深い謝罪の気持ちから出たものと考えられ、国会議員として誠に潔い姿勢である。被告人が、志を抱いてひたすら邁進し、政治家として二一年間努力を重ね、大成を期して一層の飛躍を目指したこの時期に、自らの手で政治生命を断つことは、被告人のこれまでの人生を無にし、自らの身命を絶つに等しい思いであったと推認できるのであるが、自ら選択できる謝罪の最良にして最大の手段と考え、被告人は潔く決断したものと考えられ、国会議員の地位にあった者としての責任の自覚と深い反省、被告人を選んでくれた人々のみならず国民全部に対する真摯な謝罪の気持ちを表したものといえる。

第三に、被告人が、本件脱税した税金について誠意をもってその納税に努めていることである。

被告人は、本件起訴の前後二回にわたり修正申告をした上、本件起訴にかかる昭和六一年から同六三年までの脱税額合計一七億二八七万四八〇〇円のうち、当裁判所の審理段階までに約61.5パーセントの約一〇億四七三七万円を納税しているが、これには、本件脱税した株取引益を再投資して得た株式を処分した金員はもとより、本件株式取引とは関係のない被告人が相続した父祖伝来の土地・建物を売却して作った金員によって納税した分も含まれ、特に後者は被告人自身の強い意向によるもので、被告人の贖罪の気持ちが込められているのである。そして、未納の残額については、順次、被告人個人所有の土地、家屋、マンション、及び関連会社所有のマンションなどを処分して、納税していく予定にし、現にそれら資産の売却を図っているのである。そのため被告人はもはや全ての資産を失うことになり、いまや自宅も売りに出し、世間の目を避けるように、友人の好意により親子三人アパートにひっそりと住んでいる状態にあり、また、右会社の役員報酬の形で得ている収入も早晩無くなるという状態にあり、家族三人の生活費も不足する事態になることが予想されるのである。このように、本件総脱税額の六割以上が既に納められており、さらに、全財産を投げ出しあるいは自己、家族の生活さえ犠牲にしても納税を果たそうとする真摯な態度が、被告人には存在する。

第四に、被告人が本件起訴を通して少なからぬ精神的苦痛を受けていることである。

本件が国会議員による脱税事犯ということで広く知られ、そのため被告人は、本件起訴前後の頃から衆人の注目の的となって、行動は制約され、その受けた精神的苦痛は大きいものがあったと考えられる。特に、被告人の政治家としての歩みを大きく支えた母親が不慮の死を遂げたにもかかわらず、その葬儀に加わることができなかった無念さ、苦しみは、多大なものがあったと推認できる。また、被告人の家族においても、被告人と同様のあるいはそれ以上の精神的衝撃を受け、有形無形の苦痛を味わっていると考えられる。このように、被告人が国会議員の地位にあったが故に、裁判による科刑以外に被らざるを得なかった精神的苦痛は、甚だ大きいものがあるといえる。

なお、弁護人は、被告人の本件脱税が発覚してから本件起訴にいたるまでの国税当局の取扱い対応にまずい点があり、情状として酌量されるべきであるというが、むしろ、被告人側において、被告人自身の脱税であることを秘し罪を免れるため、秘書の株式取引であるとか政治団体の株式取引であると主張し、それを受け入れてもらうためあれこれ工作し、自ら積極的に資料を作成するなどしたものであり、国税当局としては被告人側のそうした主張を自主的なものとして受け入れざるを得なかったのであるから、特に国税当局の扱いに不当な点があったとはいえない。

以上挙げた被告人に有利不利な情状及びその他諸般の事情を考慮すると、被告人の責任は非常に重大であり、懲役刑の実刑に処せざるを得ない。しかし、罰金刑について検討すると、被告人は、いまだ本件脱税にかかる税金について多額の未納分があり、今後ともその納税をしなければならず、さらに数億円とも予想される重加算税等が課せられるのであって、それら納税を果たせば、被告人にはもはや見るべき財産は全く残らず、家族三人の生活を維持するのが困難な状態にさえ追い込まれかねないのである。そうすると、被告人に懲役刑以外に本件脱税額に比例する多額の罰金刑を科するとすれば、それは、被告人に更に重い負担を課し、現在年齢五六歳を過ぎた被告人が今後その罰金を支払える可能性がどの程度あるか疑わしいにもかかわらず、懲役刑の終了後においても過重な負担を背負わせることになると考えられる。しかし、それは、却って被告人の将来の人生の再出発の妨げとなり、刑政の目的に反することでもあると考えられるので、被告人に対しては、懲役刑の刑期と併せ考慮して罰金刑を科さないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松浦繁 裁判官伊藤正髙 裁判官渡邉英敬)

別紙<省略>

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